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1月, 2012の投稿を表示しています

イヌを飼うということ

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イヌは人とのつながりが長く、これまでにさまざまな目的のために選抜育種されてきたため、犬種ごとに特徴ある行動を示します。このことが、イヌの魅力をより多様にしているのでしょう。行動遺伝学を研究している立場からも、このようなそれぞれの犬種の持つ特徴は魅力的です。 私のところにはイングリッシュ・コッカースパニエルが2頭います。名前はLeedsとChelsea。そう、サッカーファンならお分かりと思いますが、イングランドプレミアリーグのLeeds UnitedとChelseaという二つの有名なチームの名前です。すでに11歳と9歳になっていますので、そろそろ老犬となってくる頃かと思うと心配です。でもまだ2頭とも元気です。このコッカースパニエルは、もともとコッカーというシギの仲間の鳥を狩猟する際に、できるだけ気づかれないように近くへ行き、一気にシギをとびたたせるためにつくられたようです。また落ちた獲物をくわえて回収する役割も担っていました。 さて、LeedsとChelseaはやはりその選抜育種された過去を今もって捨てきれないようです。家の外を見張り、ムクドリなどが庭に下りてこようものなら、ほふく前進をして近づいたり、一気にガラス窓にとびかかり、とびたつのを見てさらに興奮したりしています。血が騒ぐとでもいうのでしょうか? 庭を見張るLeeds(左)とChelsea このような犬種に特徴のある行動は、必ずしもその犬種だけでみられるものではありません。多くの他の犬種も示す行動です。また、コッカースパニエルなら必ず示す行動というわけでもありません。同じ犬種の多頭飼いをしたことのある方なら、犬でも個体によってその性格に大きな差があることをよく御存じだと思います。このように大きな個体差はあるけれども、集団全体としてみると、行動などの特徴が脈々とそのグループの中に受け継がれているのが犬種なのです。こうした犬種の特徴を見ていると、行動遺伝学はやはり面白いと思うのです。

クローン技術

昨日の朝日新聞に、「染色体の分配異常クローン阻む要因」という記事が出ていました。理研のグループによる研究だそうです。体細胞からクローン動物を作製しようとすると、その成功率は2-3%で、ほとんどは発生の初期段階で異常を呈して発生ができなくなります。細胞分裂を開始した体細胞クローン初期胚では、娘細胞への染色体の分配に異常が生じており、それが成功率低下の原因になっているというものでした。今後はその染色体分配異常の原因を調べることも面白いかもしれません。ここのところ細胞の分化能に関わる研究はiPS細胞の研究が目立っていたので久しぶりに体細胞クローンのニュースを聞いた気がしました。 ところで、研究とは離れた話になりますが、クローン動物といえば一般にはSF的なイメージがつきまとってしまいます。最近カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」を読みました。設定は近未来ということでしょう、人類のさまざまな病気を治療するための臓器提供を目的としてつくられた体細胞クローンの人たちが、学校で寄宿生活を送りながら臓器提供者としてのマインドコントロールを受け、やがて大人になり臓器提供を何度か行った後に終わりを迎えます。こうしたクローン人間の生活と人と人とのつながり、それから心の中の苦悩がキャシーという主人公の女性の回想を通して描かれています。文章は女性の落ち着いた語り口を使って書いてあるので、淡々と進んでゆきますが透明感のある美しい文章です。最初は現代の普通の女性の回想を通した物語を語っているように感じますが、読み進めていくとところどころに少しずつ不吉な言葉がちりばめられています。それはまるで白い紙に針でつついたようなインクのあとを残してゆくようです。読者はそれ自体は汚れとはなかなか気づきませんが、やがてあるとき濡れた手でこするとそれがインクの汚れであったことに気づきます。こうした手法は、私のお気に入りのジョン・アーヴィングの書き方と共通点があるような気がしました。 私は、読んでいきながら、おそらく最初のインクの点のところで、「もしかしてクローン人間?」とインスピレーションが働いた気がします。研究者としてこうした問題の情報を多く持っているからかもしれません。その後さらに読みながら、「自分ならこういうテーマで小説を書くけどなあ」などと人間の尊厳とかクローン人間を作製した人への罪の糾弾な

地震!

地震は、多くの活断層やプレートの滑り込みを近くに抱えて、さらにたくさんの火山を有するこの日本では宿命のようなものです。 今朝、山梨県の忍野のあたりを震源とする地震がありました。この三島でも震度4程度の揺れがありました。自宅にいましたが、結構速い速度で揺ましたので、驚いて周りの確認をしました。この程度の地震は日本ではいつ起こっても不思議はないので、あまり特筆することではないのかもしれません。でも、このように大きなダメージのない地震が時々起きるのは、私たちが常日頃地震に備える気持ちを維持するうえで重要なのかもしれません。今朝も家の中の食器棚の転倒は大丈夫か確認したり、ストーブの火を消したりといった対応をしました。こういうことを経験していると、次に地震が起きた際にも対応が少しはスムーズにいくように思います。 実は、震度4程度の地震があると、マウスの飼育施設ではボイラーやガスなどが感震装置により停止するので大変です。今朝も、これらが停止して復旧までにしばらく時間を要してその間若干の温度の変化などがありました。これはこれで大変なのですが、見方を変えると万一さらに巨大な地震が起きた際にはこれらの感震装置がしっかり作動することをテストしていることにもなるので、このように被害の無い程度の地震でも作動するのは重要なことなのかもしれません。でも、土曜日の朝にすぐにかけつけて復旧に対応してくれた人たちやスタッフの〇ちゃんには感謝です。

自転車通勤

最近は環境問題もあって自転車ブームだそうです。私もずいぶん前から自転車通勤をしています。片道4キロメートルほどの道のりですが、往復に普通の自家用車を使用するとおよそ1リットルの化石燃料を使用しますから、それを節約しているというのはずいぶん環境にも良さそうです。往復でおよそ8キロメートル、時間にすると約20分から30分程度自転車に乗っていますから往復で150キロカロリー程度消費するのでしょうか。およそおにぎりとスープで300キロカロリー程度でしょうから、私の朝食で往復に自転車を使ったとしても2往復できるほどの運動になります。この1リットルの化石燃料をおにぎりとスープで賄うのですから、人間は驚くほど効率がいいですね。でも、人間は時々贅沢な食事を望むときがあります。衝動的にかなり高価な食事をしてしまうときもあります。いつもいつも効率がいいとは言えないのかもしれません。 それからもう一つ問題が・・・。夕方には自宅に自転車で帰り、夕食のあとは車に乗ってもう一度研究室に来ています。結局そのために1リットルの化石燃料を使っているのですから環境にいい生活をしているとは必ずしも言えません。

行動遺伝学に関する入門書を出版しました

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長かった2011年もようやく師走を迎えようとする頃に、「行動遺伝学入門」という本を裳華房より出版して頂きました。これは、私が山元大輔先生と一緒に編集したものですが、各章を執筆して頂いた先生方に感謝しなければならないと思っています。もちろん出版社の方にも本当に感謝しています。  行動遺伝学入門 「動物とヒトの”こころ”の科学」  裳華房  これまでずっと、大学生の人たちが行動遺伝学に関して学ぶのに良い参考書が必要だと思い続けてきました。この研究分野は、幸い多くの人に興味を持ってもらうのですが、では何が行動遺伝学かというと、それを把握するための日本語の書籍がこれまであまりなかったのです。この研究分野はアメリカやヨーロッパでは非常に盛んで、アメリカで開催される行動遺伝学に関する国際学会などに出ると参加している研究者の数もずいぶん多くなり、活気もあります。そのためか優れたテキストブックもいくつか出ています。一方、日本ではまだ行動遺伝学に関わる研究者の数が少ないように感じています。その原因とまでは言いませんが、良いテキストブックが無かったこともいくらか影響しているように思います。 行動遺伝学と一口に言っても、その中では、研究者によって対象動物もさまざまで、実験手法はもちろん、研究で知りたいことまでさまざまです。ですから、この分野を総括して一つの書物にするのは本当に難しい作業です。日本語の書籍があまりなかったもう一つの理由はここにあるのかもしれません。そういう理由で、今回の書籍では、執筆して頂いた先生方に、それぞれの研究分野をご自身の視点からまとめて頂くようにさせて頂きました。そういう意味で、この書籍は各執筆者の方々の成果なのです。 この書籍の出発点は、エヌ・ティー・エス社の「生物の科学 遺伝」で2010年に出させていただいた特集「動物行動の遺伝的基盤を解き明かす」にあります。そういうご縁か、この雑誌の2012年の1月号には森脇和郎先生になんと見開き2ページにわたる詳細な書評を書いていただきました。ここでは詳細は触れませんが、本当に的確なご指摘がたくさんあり、頭の下がる思いでした。その冒頭で言われているように、この書籍は行動遺伝学の分野のモノグラフとしてまとめてあるものなのです。 まだ研究分野になじみの無い人が最初にその分野の全体像を知る上では、

遅ればせながら・・・

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今更という気もしますが、遅ればせながらブログを始めることにしました。なぜ始めたかといえば、今日本が置かれている状況が影響しています。2011年の東日本大震災は日本人の心に大きなダメージを与えたと思います。村上春樹さんはカタルーニャ国際賞の受賞スピーチの中で、福島原子力発電所の事故に触れて、その事故の責任の一端として「効率」という表面的な便宜の前に黙してしまった私たち自身の責任を指摘しています。いつのまにか私たちは大事な道筋を見失ってしまったと・・・。 同様の気持ちは多くの人が震災後に持つようになったのではないでしょうか?今回のことは、世の中のさまざまなことに対して黙してメッセージを発することをやめてしまうことも罪になることを改めて思い知らせてくれた気がします。私自身は行動遺伝学を研究していますが、毎日研究に関わっていく上で、あるいは普通に日常生活を送ってゆく上で、思ったことをゆっくりとでもメッセージとして発することは重要なことではないかと思い始めたのです。  私は最近、ことあるごとに夢を語ることが重要だと言っています。 それは、「語る」ことで単に思い描いているだけの夢でも、それに向かう実際の行動を起こすための動機づけになるからです。でも、見た夢を自分の中に閉じ込めているだけでは、自分の中で「表面的な便宜」が暴走することを許すことになりかねません。私はネズミの研究者ですから、そのネズミの研究者としてみた夢をゆっくりとですがメッセージとして発してゆきたいと思います。もし気が向けば、時々私のメッセージをのぞいてみてください。