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11月, 2012の投稿を表示しています

進化を通して保存された身だしなみ

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マウスはよく身体のグルーミングをします。いわゆる毛づくろいという行動です。彼らは起きていれば、前足をなめながら、頻繁に顔の毛を手入れし、さらに後頭部、特徴的な大きな耳、手の届きにくい背中からおなかの毛というふうに汚れをとっていき、最後にしっぽをきれいに口で整えると出来上がりです。 前足を素早くなめ続ける こうしたグルーミングをすることで毛についた汚れを取ると同時に、毛に分泌物をつけてはっ水をよくしてきれいなつやのある状態を保ちます。実はマウスだけでなくあらゆる動物がグルーミングをします。たとえば顔を洗うと称されるようにネコが顔を前足でこすったり、イヌがしばしば身体をなめたりしています。また、鳥も枝に止まったまま羽をくちばしで細かく手入れしている姿がよくみられます。昆虫のハエでさえ手の掃除に始まり、体や羽の手入れを頻繁に行ないます。私たち人はどうでしょう?髪の毛をしばしば気にしたり、顔や髪の毛をなでつけたり、身体に汚れがつくとしつこくきれいにしたりします。動物はみな汚れることが嫌いでいつもきれいにしていたいものなのです。 動物にとって身体につく汚れは感染症などにかかるリスクを高めることにつながります。そのため、いつも手入れをして身体を清潔に保つことは病気から身を守るために重要なことなのです。また、毛や羽のはっ水処理を行うグルーミングは、雨で毛の表面が濡れた際にも中まで水が浸み込むことを防いだり、羽が水分を吸収することでその重みのために飛翔ができなくなることを防いだりするために必須なのです。当然毛の中まで濡れた動物は体温を失い生死にかかわりますし、羽に雨が浸み込んだ鳥や昆虫は飛ぶことができず濡れた地面に落ちてしまうでしょう。つまり、彼らはグルーミングを生きるために行っているのです。 また、動物はその外見も気にするそうです。大きく健康そうな動物は繁殖のための相手を見つける際に圧倒的に有利です。逆にいうと、汚れてみすぼらしい個体は、病気になりやすかったり餌を確保する能力に欠けていることを暗示するために繁殖相手としては避けられてしまうのです。そのため、繁殖期の動物は特に見栄えを良くするように気をつけるようになります。 人では、あまり近代文明に触れたことのない地域の原住民でさえも、そこで手に入るものを利用してそれなりにきれいに身を飾っています。また、

血液型性格占いをそろそろ卒業しては?

行動遺伝学を研究していると、「人の性格や行動が親から子へと遺伝するかどうか」ということが問題になります。このことは、そのうち機会があればここでも触れてみたいと思いますが、今回は少し違った視点での話題です。 それは血液型による性格占いです。血液型はABO式血液型の遺伝子により決定していて、子供の血液型は親から受け継ぐ対立遺伝子の組み合わせできまります。つまり、対立遺伝子型のO/Oは血液型のO型、A/A, A/OはA型、B/B, B/OはB型、A/BはAB型などです。複雑な組み合わせはありえますが、両親ともにA型の親から生まれた子供がA型になる確率はそれなりに高く、これによる血液型と性格とがかなり強い関係があれば、親から子へと性格が遺伝する顕著な例になるでしょう。 しかし、この血液型と性格との関連は科学的に繰り返し否定され続けています。信頼のおけるどのような研究からもこの血液型と性格との関連は示されていませんし、性格に関わる遺伝子座の解析でこの血液型決定遺伝子座が検出されたことはありません。それにも関わらず日本においてはこの血液型性格占いが姿を消しません。マスコミなどでは不十分なサンプル数でもっともらしく関連を示したりすることも多くあり、疑似科学とも非難されているようです。欧米ではこの血液型占いは全くみられないそうなので(確かに、イギリスに留学中、この血液型と性格との関連を話題にした記憶がありません)、日本や一部のアジアの地域に限定された占いのようです。この血液型性格占いは私たちの日常で広くみられます。テレビの番組でも頻繁に取り上げられていたり、バラエティーで話題になったりしているようですし、インターネットでも血液型占いなどの検索でひっかかるサイトは数多くあります。そのせいか、人々の日常の話題の中でも頻繁に出てきます。 あるとき、飼い犬の関係で知り合った人たちと一緒にキャンプをしました。それまであまり面識もなかったので、初対面に近いメンバーです。私も含めた男3人がバーベキューで焼くものを網の上に並べていました。一人がたくさんの手羽先を網の上に並べていましたが、そのうち困ったようなそぶりを見せました。見ると、網の上に右手羽ばかりをきれいに並べていたのですが、それがなくなり左手羽になってしまったのです。困ったそぶりは、途中で手羽がきれいに並ばなくなってしまったか

カワセミの鮮明な朝の残像を思いだして

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私が仕事をしている研究所があるのは静岡県の三島市になりますが、ここの市の鳥はカワセミです。この鳥が市のシンボルになっているのは、市内に富士山からの地下水がわき出る湧水が多くあり、それらが流れる川のところでカワセミが多くみられるからでしょう。JR三島駅前にある楽寿園の中にある小浜池にも本来は湧水が豊富にあふれていたのですが、近年では富士山の中腹で工場などによる地下水のくみ上げが多いらしく、その水量が減少しています。そのため、小浜池に水が溜まることは少なく、まるで枯山水を楽しむような状態が続いています。それでも、あの水はどこからくるのでしょうか、小浜池に隣接する池には水が溜まり、そこには鯉も泳いだりしています。この池もカワセミの名所で、鳥好きの人ならよくカワセミを見に来る場所です。 今年の夏ころだったでしょうか、通勤の際にいつものように自転車で田園の中の道を通っていました。そこは、舗装された農道が田んぼの中を緩やかに大きくS字状にカーブし、道路のすぐ脇を水量の豊富な用水路が流れていて、自転車で走って気持ちの良い道路です。 田園の中の道路と富士山 適度なスピードで走っていると少し先の水路脇のコンクリートの上にカワセミが止まっているのが見えました。明るい朝の澄んだ光に照らされて、背景のコンクリートの白い色と対照的でまるで宝石が光っているように見えました。さらに自転車で減速することなく近づくと、そのカワセミはさすがにあわてて飛び立ちました。ところが、飛んだ方向が私にとっては幸運で、彼あるいは彼女にとっては少し不運だったのでしょう、自転車と同じ方向に水路に沿って飛んでしまいました。飛んでいる際に、かなり自転車で接近したので、カワセミの飛翔する背中を近くで見ることができました。もちろんカワセミの方が早いので、やがて離れてしまい、少し離れた先の水路脇に再び止まりました。しかし、すぐにまた私の自転車が接近するので、休む間もなく再び飛び立ちました。でもまた水路に沿って飛んでいくのです。慣れ親しんだ水路から離れたくないのかもしれません。幸運にも再度カワセミの背中を近くで拝むことができました。ほんの数秒でしょうか、自転車と同方向に飛んだあと、おそらくようやく自分が逃げる方向を間違えていることに気付いたのでしょう、急に直角に方向を変えて田んぼの中へと飛んでいってしまいまし

山々を早く歩くこと

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研究施設でマウスを飼育しているそのケージはたかだかヨコ22センチ、タテ32センチ程度の大きさで、マウスにとってはそこがすべてです。そのためあまり活動できないように思うかもしれませんが、実際にはそれでもかなり動き回っています。夜行性のマウスは昼間はほとんど休んでいて夜になると盛んに活動するようになります。そこで何をするかはさまざまですが、おおよそ床を走り回ったり、ケージのふたにぶら下がって動き回ったりしています。ほとんどが目的のない行動にも見えて、まるでエネルギーを消費することのためだけに動いているように思えます。 私の特技は山を早く歩くことです。どれぐらい早いかというとかなり早いようです。以前外国から研究者が来た際に箱根の山歩きに案内しました。彼はアフリカのキリマンジャロに登ったことがあると聞いていたので、日本の山の良さも味わってもらおうと思ったのです。その際に研究室のメンバーも山歩きに同行しました。さすがにキリマンジャロの経験もある彼は平気だったのですが、話しながら尾根を歩き続けているうちに彼が言いました。 「僕は平気だけどね、後ろも見た方がいいよ」 後ろをみると、そこには遅れてついてきていたラボメンバーの刺すような視線がありました。 山歩きも、目的のはっきりしない、なぜ歩くのか説明のしにくい行動です。それがいいところなのでしょう。 16年ほど前になりますが、留学中に夏の休暇をとり、スイスのツェルマット(Zermatt)というところで10日間ほど滞在して山歩きだけを毎日繰り返したことがあります。あのマッターホルンのふもとの村です。小さな村ですが夏場は観光客がたくさん訪れて、大変にぎわっています。そうした観光客が宿泊するための落ち着いたホテルもたくさんあります。スイスは物価が高いのでホテルに宿泊するとけっこうな値段になるでしょうが、私の場合は民家の部屋を借りて比較的安く過ごすことができました。村内は自動車の乗り入れが禁止されていて、かわりに電気自動車や馬車が走っているだけなので、空気もとてもきれいですし、家々の窓にはゼラニウムなどの花が咲き乱れておりとても美しい過ごしやすい村です。 そのツェルマットは高度1600メートルほどのところにあり、村の周囲は4000メートルを超える山々に囲まれています。さすがに山を観光資源にしているだけあってそうした峰々