サルスベラズ
野生動物との出会いはしばしば緊張感のある刺激的なものとなります。 けさのことです。犬たちが庭に向かってやたらと吠えているので見に行くと、目の前のハナミズキに彼はいました。ニホンザルの雄です。うちの犬も吠えるはずです。文字通り犬猿(けんえん)の仲なのですから。掃き出しのガラス窓を隔てて5メートルほどの距離でしょうか。ずいぶん近くに見えました。私の家は箱根(はこね)の山がなだらかに三島のまちにさしかかるその切れ目のところにあるため、冷静に考えればサルが出没するのは不思議なことではありません。 とりあえずその姿を記録しようとカメラを取りに2階に上がり、再びその窓に戻ってきました。危惧(きぐ)したとおり彼はハナミズキから消えていました。それでも、朝日が庭の芝に映す影で彼が家の上に向かって移動している様子がわかりました。娘も出てきて、二人でそろそろと庭に出てみました。 すでに彼は隣の建築中の家へと移り、その周りを取り囲む足場を登ろうとしていました。するすると登ると最も高い見晴らしのいいところにつかまりました。こちらからは娘と二人で興奮しながら写真を撮影(さつえい)しようとカメラを向けています。すでに距離は15メートルほどあるでしょうか。わいわい言いながらカメラを向けられている彼はそれが気にいらないのでしょう、不機嫌(ふきげん)そうに顔だけこちらに向けて私たちのようすを見ています。 やがて、ポールをつかみ、その足場を激しく揺らしました。自分はちからがあるということを誇示する行為です。ひとしきり思いきり揺らした後で、再びこちらのようすを見ています。まだカメラを向けていると、明らかに気にいらないいらだちが身体からあふれ、そしてからだをほんの少しこちらに向かってひねりました。攻撃してくるのかもしれません。慌てて娘と一緒に家の中に逃げ込んでガラス窓を閉めました。その数秒後、彼は庭の木にざっと音をたててのぼりました。それは冬の間に枝の剪定をして幹だけが残り、そこにようやく若芽が伸び始めているサルスベリの木です。まったくすべっていないのに感心していましたが、そういう私の気持ちも察することなく枝につかまり家の中をにらんでいます。その距離約3メートル、さすがに迫力があります。それでもガラス越しに見ているこちらが気に入らないのでしょう。今度は窓の枠につかまりガラス越しに家