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キツネの子育て

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 私の探鳥のフィールドは富士山周辺です。ですが、4月上旬はどうも鳥が少なく成果が上がりません。昨日の4月9日にも晴天の中富士山の方に探鳥に行きました。標高は700メートルほどでしょうか。 いつもはホオジロがいる所へ行ってみましたが、まったくいないようです。いるのかいないのか、私は難聴が進みホオジロの声も聴き取れなくなっているので、あまり分かりません。ですが、見えないのだからいないのでしょう。 他の鳥はいないか探して歩いていると、なんだか不思議な声がします。鳥の地鳴きのようにも思えますが、規則性がありません。声のする方向にゆっくり歩いていくとそこにいるのはキツネでした。それほど距離はなく、15メートル程度ですが、こちらが枯れた草の背後にいるため、キツネはまだこちらに気づいていないようです。 キツネの親が周りを警戒していますが、子供が2匹いるようです。全体を見ることができないので、子供の全貌をうまく見ることができません。背後には石を積み上げたところがあるので、どうもその石の隙間の穴を巣にしているようです。親と子が何かを食べているようですが、うまく見ることができません。子供が餌を食べているのをおそらく母親が補助しているようです。 大きさから推測すると、子供はこの冬に生まれた個体で、生後2-3か月程度でしょうか?おそらく春になりようやく巣穴の外に出始めたのだろうと思います。私がカメラで撮影しようと少し場所を移動すると親に見つかったようです。当たり前ですが親はずいぶん警戒しています。それでも子供に巣穴に入るようすぐには指示していないので、こちらの様子を見ているのでしょう。あまり邪魔をしないよう、そっとその場を後にしました。 警戒する母ギツネ 富士山では、様々な哺乳類をみることができます。これまでも、イタチ、タヌキ、オコジョ、二ホンジカ、などなどです。キツネは食物連鎖の上位にいると思いますが、生存競争はどの程度厳しいのでしょう?温暖化の影響で、生息域にも変化が生じていると思いますが、増えているのか、減っているのか、探鳥をしながらこうした動物たちも注意してみていこうと思います。

自然豊かな浮島ヶ原

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富士市と沼津市にまたがる湿地は浮島ヶ原と呼ばれ、古くから広大な湿地帯として知られていました。現在は、農耕地の開発が進み、広大な田畑が広がる中に、一部ヨシ原が残っています。多くの場所は農耕地となっているため、一般にみられる農地の風景とそれほど大きな違いは感じません。ところが、この地域の中で鳥を探すと驚くような鳥たちに出会うことができます。 この冬から見つけた珍しい鳥だけでも、タゲリ、ムナグロ、アオアシシギなどに出会うことができました。 また、ヨシ原の中ではサンカノゴイも見ることができました。これはいまだにヨシ原が残るこの場所だからこそみられるものです。 餌を探して歩くサンカノゴイ 猛禽類にも出会うことができます。冬には、ハヤブサ、ノスリ、チョウゲンボウなどを普通に見ることができます。こうした猛禽類が豊富にみられるのも広大な農地が広がる場所だからこそだと言えるでしょう。 先日鳥を見に訪れた際には、ヒクイナやタマシギも見ることができました。 昨日また鳥を探しに行きましたが、残念ながら珍しい鳥は見つけることができませんでした。ところが、車から100メートルほど離れた水田のところに大きな牡しかが悠々と歩いていました。いくら自然が豊かでも、これは農家の方たちも困ることでしょう。少し心配になりました。 浮島ヶ原は富士市や沼津市が国内のみならず世界的にも誇ることができる素晴らしい湿地地帯だと言えるでしょう。

オオジシギの理由なき反抗

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繁殖期になると動物たちはより華やかになります。 婚姻色という言葉があるように、動物たちは鮮やかな色彩に変化します。庭にある睡蓮鉢の中のメダカでさえも産卵する5月になると色彩が鮮やかになります。鳥はよりわかりやすいでしょう。 キジのオスは繁殖期の春には顔の赤い色がより分かりやすくなります。広い農地に行くと田畑でケーン ケーンという鳴き声がよく聞こえます。あちらでもこちらでも鳴いているので、それぞれ縄張りを主張しているようです。時におそらく縄張りに侵入した他のオスがいるのでしょう。オス同士が向かい合って飛びはねながら争っている姿も見ることができます。ひらりと飛び上がっては相手に攻撃を仕掛ける姿は激しいものの優雅でもあります。さすがは国鳥に指定された鳥です。 先日の5月中旬に、富士山でオオジシギを見ました。朝の6時半ころに須山の近くに行きました。日が昇るのが早くなってきているのでその時刻にはすでに太陽も高くなっています。草原の向こうから普通では鳥と思えないような、カエルのような鳴き声が聞こえてきます。少し待っていると、鳥が飛び立ちました。富士山を背景にして空を大きく回って視界から消えていきます。やがて、「ツビーク ツビーク」という声が聞こえて戻ってきました。再び視界に現れたオオジシギは上空から「ゴゴゴゴッ」という音を響かせながら急降下をします。地面の手前で角度を変えて少し離れた場所に着地します。今度は別の個体が同じように飛び立ちます。 ディスプレイフライトの後のオオジシギ これはディスプレイフライトと呼ばれる行動です。はるかオーストラリアからわたってきたこのオオジシギたちは、繁殖のためにこのフライトをすると言われています。メスに見せて気をひくのでしょうが、別のオスに対して「どうだっ!」という意味もあるのかもしれません。 このディスプレイフライトを見ながら、昔見た「理由なき反抗」という映画を思い出しました。親に反抗を繰り返す主人公のジェームス ディーンが扮する少年ジムが不良相手にチキンレースをするのです。何かに怒りをかかえた若者二人がお互い争い、それぞれ盗んだ車で崖にノーブレーキで向かっていきます。どちらが先に怖くなりブレーキをかけるか争うのです。ナタリーウッドが扮する少女が見守る中、競争をした2台の車は共に崖から落ちていきますが、ジムは崖の手前で車から飛び降り命が助かりま

サギたちも自己家畜化?

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私が研究している家畜化はとても興味深い現象です。 動物が自然界で生存していく上で家畜化は不要なものだと思われるでしょう。実際、家畜化されたニワトリやウサギなどの動物が人里離れた野に放たれれば早い段階で捕食者の餌食になるに違いありません。したがって、家畜化と自然界での生存競争とは対極にあると考えられがちです。 しかし、本当にそうでしょうか?家畜化とは動物が同一種ではない人などの他種に生存するための餌や住みかなどを委ねることです。そのために、家畜化が進んだ動物たちは人などの他種の動物に高い社会性を示すようになります。人と犬の関係が良い例です。犬たちは人と同じグループの一員であるように生活をするようになります。この他種の動物に対する社会性の向上が家畜化の重要な要素となるのです。 一方、家畜を支配しているはずの人も行動がおかしくなってきています。多くの人はイヌやネコを自宅で飼っていますが、まるで家族と同様、いや家族以上の関係で飼っている人が多くいます。ペットを家族のように名前で呼び、まるで自分の子供に対するように話しかけ、多くの時間をペットと共に過ごし、「ペットに癒される」などと言っています。ペットが死んでしまうとペットロスでつらい日々が続きます。(これは私も経験があるのであまり言えません。)実は人も他種の動物に対して高い社会性を示すようになっているのです。 人は自己家畜化されることで高い社会性を身に着けたといわれています。それにより、他者に対する共感ができるようになり、他人を助けることもできるように進化してきたのです。 先日、サギが群れて巣を作っている木を見つけました。 サギの群れる木 よく見ると、その木にはゴイサギ、アオサギ、ダイサギ、コサギなどが群れて巣をつくっています。別種であるにも関わらず、巣が近すぎます。しかも、様々な鳴き声が混じってずいぶん賑やかです。巣作りと育雛という、種の維持に不可欠なイベントを過ごすにしては他種に対して親和性が高すぎます。このような他種への高い親和性は家畜化のサインでもあります。もしかするとサギたちも自己家畜化が進んだ鳥なのかもしれません。そういえば、農家の人がトラクターで田畑を耕す際に平気で人の近くにいる姿も見たことがあります。「サギの群れる木」を見てなんだか楽しくなってきたのでした。

南から北へ ふもとから上へ

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 桜の季節も終わりになりました。遺伝研の構内は早咲きの熱海桜や河津桜に始まり、オオシマザクラ、染井吉野など次々と咲き、最後に各種の八重桜が咲いていきました。次々と咲く桜の花はずいぶん人々の目を楽しませてくれました。このように、桜の種類によって開花の時期が異なり、同じ構内でも時期をずらして花を咲かせていきます。 日本中で広く植えられている染井吉野は接ぎ木により増殖した遺伝的に同じクローンですが、日本列島の南から北へと時期をずらしながら開花していきます。いわゆる桜前線というものです。この時期には日本の地域によって気温が違うことを改めて感じさせてくれることになります。 この季節、桜の開花は北上するだけではありません。山の上へと昇ってもいくのです。三島は海からそれほど離れていませんが、少し足を延ばすと富士の山に行くことができます。裾野から上がっていくと4月の終わりでも富士山の中腹では桜が開花しています。マメザクラの群生です。小さな花をたくさんつけるマメザクラも桜の中で見ごたえのある桜といえるでしょう。 鳥たちも大きな変化を見せてくれます。冬鳥は北へとすでに旅立ちました。自宅に現れては水浴びをしていたジョウビタキもいつのまにか姿を見せなくなりました。それと入れ替わるように、冬を温暖な地で過ごした鳥たちが夏鳥としてやってきました。鳥たちも南から北上するだけではありません。麓から高山へと自分の好みの気温の場所を探して夏を過ごします。 富士の山も1000メートルを超えるあたりではオオルリが高らかに鳴き始めました。マメザクラの枝から枝へと飛び回る姿も見ることができます。少しまだ肌寒いこの場所が好きなのかな と思うのでした。

巣作りの季節

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 マウスの雌は数匹から十匹程度までの仔を一度に産みます。その後仔育てをしますが、仔育て上手な雌もいればそれほど上手でない雌もいます。マウスの場合、仔育ての上手でない場合はすぐに仔の死に結び付くので、非常に重要な行動であるといえます。 マウスの系統の中には、仔育ての上手な系統もいればあまり上手でない系統もいます。この子育ての上手・下手はある行動実験である程度分かります。それは、巣作り行動です。 綿を固めた素材が販売されているのですが、それを入れておくと巣作りの上手なマウスはうまく綿をほぐしてきれいな鉢のような巣を作り上げます。一方、巣作りの苦手な個体は、うまくほぐすことができず、巣も盛り上がった状態のものになりません。このような巣作りは、メスが「これから仔育てをするぞ」という気持ちにどれだけなっているか表しているのかもしれません。そういう意味でも、巣作りは研究対象としても興味深い行動です。 季節はすっかり春になりました。家の庭には鳥がよくやってきます。冬の間、水浴びやえさをついばみにやってきていた鳥たちが、春になるとだいぶ行動が変わってきます。もちろんえさを探している鳥もいるのですが、求愛の鳴きあいも増えてきました。家の外ではイソヒヨドリのさえずりがうるさいほどです。 先日庭の芝生にシジュウカラが下りていました。でも少し様子が変です。口に白いひげが生えているようです。 ヒゲのシジュウカラ よく見ると、なんだか白いものをくわえているのでした。その白いものは、つい一時間ほど前に、私が愛犬のモンを散歩に連れて行って戻ってからブラッシングをして抜けた毛を芝生の上に残していたものでした。そんな獣臭のするもので平気なの?と少し驚きましたが、シジュウカラはなんだかとてもうれしそうに見えて、やがて家の裏手の方に向かって飛んでいったのでした。おそらく巣材につかうのでしょう。犬の匂いはするかもしれませんが、冬の間モンを寒さから守ってきたアンダーコートです。きっと暖かい巣ができると思います。 つい数日前にはいつも庭の水場で水を飲んだり水浴びをしているイソヒヨドリの雌がなにか盛んに動き回っていました。よく見ると、その数日前に新しくゼラニウムを植えたハンギングバスケットからシュロの繊維をぬきとっているようです。バスケットの外側からむしり取るのではなく、土からはみ出している繊維を一本ずつ抜き取っ

バーダーの観察

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 新型コロナが一年前から世界中の生活を変えてしまいました。 ちょうど昨年のガーナへの出張後に新型コロナの問題が報道され始め、2020年4月には1回目の緊急事態宣言が発出されて、巣ごもりやソーシャルディスタンスなどの言葉が身近なものとなっています。数年前から双眼鏡を買い替えるなど、鳥の観察を再開しているのですが、この新型コロナ禍の中で、家族で探鳥に行くことが増えました。 冬は寒くてつらいのですが、探鳥にはもってこいの季節です。落葉樹は葉を落としているため遠くの木まで見通すことができます。鳥が移動すれば見つけやすい季節です。また、食べ物も限られるため、鳥たちは一生懸命にえさを探しています。晴れた日には鳥が活動的なのです。 冬になりえさを盛んに探していた鳥たちが、2月に入ると少し様子が変わってきた気がします。心なしかメスとオスのコミュニケーションが増えてきているように思うのです。先日は、富士市の浮島沼でコガモのオスがぴゅーぴゅーと泣き始めました。メスは少し濁った声でジェージェーと返事をしています。オスは冬の間にすっかりきれいな羽の色に変わっています。厳しかった冬がようやく終わりつつあることが鳥を見ているとよくわかります。雄雌の活動が活発になってきているようです。 コガモのペア 今日は富士山麓の十里木で探鳥をしました。2羽のアカゲラが楽しそうにもつれ合いながら飛び回り、それでもえさを盛んについばんでいました。 アカゲラのペア 鳥たちの活動を見ていると、春がそこまで来ていることがよくわかります。今年の冬は少し厳しかったように思いますが、それでもしっかり春は来るのです。私たちの生活も早く元に戻るとよいと思います。