行動が先? それとも味覚が先?

行動を考える際に、進化レベルのことを考えると途端に話しが面白くなることがあります。

味覚についてここで触れることが良くありますが、ちょうど最近興味深い論文がアメリカのグループから報告されました。動物には肉食の動物がいますが、その食肉目に属する動物の多くで甘味受容体の遺伝子が壊れしまっているというのです。

苦味にはたくさんの遺伝子がありますが、甘味は二つの遺伝子でその受容体がつくられます。そのうち甘味の認識に重要な働きをするのがTas1r2遺伝子です。食肉目のネコやカワウソ、それにアシカなどではこの遺伝子が働かなくなっていました。食肉目の中でも甘味に嗜好性のあるメガネグマでは遺伝子は働いています。 興味深いことに、コウモリ目のなかのコウモリは一般に果物や昆虫を餌にしますが、吸血コウモリとよばれるチスイコウモリでは甘味遺伝子が働いていないそうです。

食肉目の中には餌を丸のみする動物がいます。たとえばアシカやバンドウイルカなどです。そうした動物は甘味受容体だけでなくうま味受容体の遺伝子も働かなくなっているそうです。こうした動物は餌を丸のみしているので魚のうま味を味わう必要がないのでしょう。ジャイアントパンダでは甘味受容体はしっかりと存在します。その一方でうま味遺伝子はなくなっているのだそうです。確かにササを噛んでいても甘味は出てくるでしょうが、うま味が出てくることはありません。うま味遺伝子を持っている必要が無いのです。

先に紹介したバンドウイルカでは、なんと苦味受容体も働かなくなっているかもしれないそうです。以前にも紹介したように、苦味受容体遺伝子はたくさんあります。それらがなくなると、動物は毒物を味覚で察知することができなくなります。餌を味わう前に飲み込んでしまうイルカでは、このような毒物センサーはほかの感覚にゆだねているのかもしれません。

皆さん、イヌの甘味受容体はどうなっていると思いますか?

我が家のイヌは健康のためにヒトの食べ物を食べさせないようにしています。それでも目を盗んで食べてしまうことがあります。娘が食卓の下にこぼしたビスケットの粉を食べて歩く癖もついてしまっています。あるとき、コーヒーを飲む際に食べようと机の上に転がしていたアーモンドチョコが一つなくなっていたこともありました。甘いものに加えて干物のような魚も大好きです。煮干しを見せると狂喜したようにして寄ってきます。人とともに生活するイヌにとって、甘味やうま味がわかることは、どのような食文化の中でも生きていけるようにするために必要なのでしょう。このように、イヌはその行動から考えても、甘味・うま味ともに認識できるように思います。実際、甘味受容体の遺伝子も持っていて、しかもそれらはしっかりと働いているようです。

さて、このように動物の味覚遺伝子の有無は、その採餌行動とうまく対応しているように見受けられます。では、甘味遺伝子がなくなったら肉食動物になるのでしょうか?あるいは肉食動物になると甘味遺伝子が不要になり壊れやすくなるのでしょうか?これはまるで「卵が先か 鶏が先か」の問いに似ていて答えの出しにくい問題です。甘味受容体遺伝子を働かないようにしたマウスで肉食嗜好が強くなれば味覚が先ということになりますね。

最近、肉食系男子などという言葉が使われます。もしかしたら肉食系男子は甘味嗜好性が低いのでしょうか?

甘いクリームにチョコのたっぷりのったケーキと、肉汁の滴る暖かいステーキ、さあ、あなたはどっち?




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