進化を通して保存された身だしなみ

マウスはよく身体のグルーミングをします。いわゆる毛づくろいという行動です。彼らは起きていれば、前足をなめながら、頻繁に顔の毛を手入れし、さらに後頭部、特徴的な大きな耳、手の届きにくい背中からおなかの毛というふうに汚れをとっていき、最後にしっぽをきれいに口で整えると出来上がりです。


前足を素早くなめ続ける

こうしたグルーミングをすることで毛についた汚れを取ると同時に、毛に分泌物をつけてはっ水をよくしてきれいなつやのある状態を保ちます。実はマウスだけでなくあらゆる動物がグルーミングをします。たとえば顔を洗うと称されるようにネコが顔を前足でこすったり、イヌがしばしば身体をなめたりしています。また、鳥も枝に止まったまま羽をくちばしで細かく手入れしている姿がよくみられます。昆虫のハエでさえ手の掃除に始まり、体や羽の手入れを頻繁に行ないます。私たち人はどうでしょう?髪の毛をしばしば気にしたり、顔や髪の毛をなでつけたり、身体に汚れがつくとしつこくきれいにしたりします。動物はみな汚れることが嫌いでいつもきれいにしていたいものなのです。

動物にとって身体につく汚れは感染症などにかかるリスクを高めることにつながります。そのため、いつも手入れをして身体を清潔に保つことは病気から身を守るために重要なことなのです。また、毛や羽のはっ水処理を行うグルーミングは、雨で毛の表面が濡れた際にも中まで水が浸み込むことを防いだり、羽が水分を吸収することでその重みのために飛翔ができなくなることを防いだりするために必須なのです。当然毛の中まで濡れた動物は体温を失い生死にかかわりますし、羽に雨が浸み込んだ鳥や昆虫は飛ぶことができず濡れた地面に落ちてしまうでしょう。つまり、彼らはグルーミングを生きるために行っているのです。

また、動物はその外見も気にするそうです。大きく健康そうな動物は繁殖のための相手を見つける際に圧倒的に有利です。逆にいうと、汚れてみすぼらしい個体は、病気になりやすかったり餌を確保する能力に欠けていることを暗示するために繁殖相手としては避けられてしまうのです。そのため、繁殖期の動物は特に見栄えを良くするように気をつけるようになります。

人では、あまり近代文明に触れたことのない地域の原住民でさえも、そこで手に入るものを利用してそれなりにきれいに身を飾っています。また、遊び盛りの小さな子供は別でしょうが、ある程度大人になると泥んこになっているなどということはあまりありません。それは、身体の汚れはお互い気になるものですし、自分自身でも気になるものだからです。こうした性質は、動物の本能として身についたものなのかもしれません。

ところで、最近平安時代を舞台にしたドラマで画面が汚いということが話題になっていました。確かに、主人公が大人になってからも衣服や顔が泥で汚れていて不自然な印象を受けます。この違和感はどうしてなのでしょう?これまでの話しからも明らかでしょう。身をきれいに保つことは人類だけではなくあらゆる動物を通して保存された重要な行動です。動物は進化を通して変わることなく身をきれいに保ち続けてきたのです。今から1000年ほど前だからといって当時の人たちが泥だらけになっているということは、そもそも動物の性質としてありえないことなのです。その本能と映像とのギャップが、見るものになんとなく違和感を与えてしまう背景なのではないかと思うのです。

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