アンチエイジングについて

先日、柳田充弘先生が研究所でセミナーをされました。最近のお仕事を全く存じ上げなかったのですが、現在も精力的に新しい分野での研究に取り組んでいらっしゃることを知り、優れた研究者の飽くなき追求心の迫力に脱帽しました。研究の内容は細胞周期などのお話しかと思いきや最近興味を持って研究をされている老化の問題に関するものでした。柳田先生ご自身が70歳を超えていらっしゃるので、歳をとっても第一線のアクティビティーを維持するようにするにはどうすればいいか生物学的な観点から知りたいものです。

そういえば最近、歳をとりながらも第一線で活躍される方の話題を耳にすることが多くあります。ちょうど今、ウィンブルドンテニスをやっていますが、先日はクルム伊達公子選手がシングルスに出ていました。第一セットは順調にゲームをとっていて、このままいくと楽勝かという気もしました。しかし、第一セットの終盤で相手に粘られ始めました。足の怪我もしていたそうなので、できれば第一セットを簡単に取りたいところでした。確か、一回目のセットポイントをとれば疲れもためずに第二セットに臨むことができたはずですが、そのポイントを相手のスーパーショットか何かで落とし、結局そのゲームを粘られて落としました。その後ゲームを重ねて、苦しい接戦のあとにようやく第一セットをとる結果になってしまったと思います。一回目のセットポイントに失敗した後、みるみるうちに疲労をためていった様子がテレビで見ていてもよくわかりました。テニスというのは奥の深いスポーツです。わずか一つのプレーが試合全体を左右することもあるのですから。結局この試合はセットカウント1-2で負けてしまいました。

その伊達選手は現在42歳でしょうか?一度引退したあとに40歳を前にして復帰し、こうしてウィンブルドンで活躍しているのですからたいしたものです。伊達選手については、1992年のウィンブルドンを留学中に見に行った際に実際に試合を見たことがあります。まだ伊達選手が国際舞台でよく知られる前でした。ウィンブルドンというとセンターコートやファーストコートなどをテレビで目にしますが、シードされていない選手の多くは、一応芝のコートではあるもののその周囲を観客が囲んで立って見学しているようなコートで試合をしたりしています。友人が「ツヨシ、デートという日本人が試合をしているよ」と言ってきました。「デート?それはダテだよ」などと言いながら、その観客スペースの小さなコートを見学しに行きました。その試合では伊達さん、見事に勝ってくれたので、国際舞台で頑張っている日本人を見てうれしく思ったものです。それから世界ランク一桁の時代を経て、20年たってまだウィンブルドンで活躍しているのですから頭が下がります。

その92年のウィンブルドンでは、センターコートでシングルスでプレーするマルチナ・ナブラチロワとシュテフィー・グラフも見ることができました。その頃若くて圧倒的に強かったグラフは、完璧ともいえる体格と感情を表に出さないクールな様子に、簡単にシード外の選手を退けた試合内容とも重なってまるで氷の女王のような印象を受けました。一方、ナブラチロワは当時36歳を迎え、すでに4大大会優勝からは少し遠ざかり、往年の強さはなかったのでしょうが、その存在感は他の誰よりも際立っていました。センターコートの観客は、彼女のいかなるプレーも、審判とのやり取りや一挙手一投足さえも見逃さないように注目して見ていて、しかも観戦を楽しんでいるのが感じられました。その際のパフォーマンスもすごかったのですが、彼女はその後もおおよそ50歳までダブルスの試合には現役として出続けたということも驚きです。

サッカー界では言わずと知れたキングカズがいます。彼は今45歳でしょうか。まだ現役でプレーを続けるその姿勢はまさにキングです。キングに定年はないのですから。彼は1990年に鳴り物入りでブラジルから帰国しましたが、そのころの彼のプレーが当時の日本の子供たちに与えた影響ははかりしれないものがあります。それから20年以上たっても現役とは想像できません。私自身、最近はサッカーの試合から遠ざかりつつあるので現役で続けることの難しさはある程度予想できます。相当の努力をしているのでしょう。

もうすぐロンドンオリンピックが開催されます。その競技の中で、馬術に法花津寛という選手が参加します。なんと71歳です。法花津という名前は珍しく思いますが、私の実家のある愛媛の宇和地方に法花津峠というところがあり、実際、法花津さんの祖父は愛媛のこの地方出身だそうです。オリンピックでは愛馬ウィスパーと共に悔いの残らない円熟の演技を期待しています。

老いるということは、これまで出来ていたことができなくなることです。長く現役でい続けるということは、そのようにして欠けていくものを可能なかぎり少なく留め、たとえ減ったとしても他のもので補うことを求められます。そういう努力と工夫をこうした長く現役で続けられる人たちは絶え間なくやっているのだろうなあと思うのです。


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