カワセミの鮮明な朝の残像を思いだして

私が仕事をしている研究所があるのは静岡県の三島市になりますが、ここの市の鳥はカワセミです。この鳥が市のシンボルになっているのは、市内に富士山からの地下水がわき出る湧水が多くあり、それらが流れる川のところでカワセミが多くみられるからでしょう。JR三島駅前にある楽寿園の中にある小浜池にも本来は湧水が豊富にあふれていたのですが、近年では富士山の中腹で工場などによる地下水のくみ上げが多いらしく、その水量が減少しています。そのため、小浜池に水が溜まることは少なく、まるで枯山水を楽しむような状態が続いています。それでも、あの水はどこからくるのでしょうか、小浜池に隣接する池には水が溜まり、そこには鯉も泳いだりしています。この池もカワセミの名所で、鳥好きの人ならよくカワセミを見に来る場所です。

今年の夏ころだったでしょうか、通勤の際にいつものように自転車で田園の中の道を通っていました。そこは、舗装された農道が田んぼの中を緩やかに大きくS字状にカーブし、道路のすぐ脇を水量の豊富な用水路が流れていて、自転車で走って気持ちの良い道路です。


田園の中の道路と富士山

適度なスピードで走っていると少し先の水路脇のコンクリートの上にカワセミが止まっているのが見えました。明るい朝の澄んだ光に照らされて、背景のコンクリートの白い色と対照的でまるで宝石が光っているように見えました。さらに自転車で減速することなく近づくと、そのカワセミはさすがにあわてて飛び立ちました。ところが、飛んだ方向が私にとっては幸運で、彼あるいは彼女にとっては少し不運だったのでしょう、自転車と同じ方向に水路に沿って飛んでしまいました。飛んでいる際に、かなり自転車で接近したので、カワセミの飛翔する背中を近くで見ることができました。もちろんカワセミの方が早いので、やがて離れてしまい、少し離れた先の水路脇に再び止まりました。しかし、すぐにまた私の自転車が接近するので、休む間もなく再び飛び立ちました。でもまた水路に沿って飛んでいくのです。慣れ親しんだ水路から離れたくないのかもしれません。幸運にも再度カワセミの背中を近くで拝むことができました。ほんの数秒でしょうか、自転車と同方向に飛んだあと、おそらくようやく自分が逃げる方向を間違えていることに気付いたのでしょう、急に直角に方向を変えて田んぼの中へと飛んでいってしまいました。突然夢から覚めたように、私の前にはいつもの普通の道が広がりましたが、相変わらず減速することなく自転車をこぎ続けました。その鮮やかなコバルトブルーのメタリックな色を反芻しながら職場に向かったのです。

先日Natureダイジェストという雑誌をめくっていて初めて知ったのですが、このカワセミの鮮やかな色は実は色素の色ではないのだそうです。物質の表面にある微細な構造が原因で、そこにあたる光が独特の干渉、回析や散乱などをするために、特殊な色となって見えるというのだからとても不思議な色です。このようにして発する色を構造色というそうで、他にはシャボン玉、油膜、タマムシ、貝殻や真珠、さらにはおなじみのCDやDVDの書込み面の色もこの色だそうです。構造色の多くはメタリック色になるものが多いそうなので、カワセミのコバルトブルーの色が構造色なのもうなずけます。この記事は植物の実で初めて構造色を発しているものが見つかったことを紹介したものですが、それ以前にカワセミの色が色素によらないところですでに感心してしまいました。この鳥の羽毛が、構造色を発するほど微細に規則正しい並びをしているのかと思うと、さらに高貴な鳥のような気がしてしまうのでした。

このブログの人気の投稿

辛さを感じるネズミと感じないネズミ

進化を通して保存された身だしなみ

脳の働きをまもる