血液型性格占いをそろそろ卒業しては?

行動遺伝学を研究していると、「人の性格や行動が親から子へと遺伝するかどうか」ということが問題になります。このことは、そのうち機会があればここでも触れてみたいと思いますが、今回は少し違った視点での話題です。

それは血液型による性格占いです。血液型はABO式血液型の遺伝子により決定していて、子供の血液型は親から受け継ぐ対立遺伝子の組み合わせできまります。つまり、対立遺伝子型のO/Oは血液型のO型、A/A, A/OはA型、B/B, B/OはB型、A/BはAB型などです。複雑な組み合わせはありえますが、両親ともにA型の親から生まれた子供がA型になる確率はそれなりに高く、これによる血液型と性格とがかなり強い関係があれば、親から子へと性格が遺伝する顕著な例になるでしょう。

しかし、この血液型と性格との関連は科学的に繰り返し否定され続けています。信頼のおけるどのような研究からもこの血液型と性格との関連は示されていませんし、性格に関わる遺伝子座の解析でこの血液型決定遺伝子座が検出されたことはありません。それにも関わらず日本においてはこの血液型性格占いが姿を消しません。マスコミなどでは不十分なサンプル数でもっともらしく関連を示したりすることも多くあり、疑似科学とも非難されているようです。欧米ではこの血液型占いは全くみられないそうなので(確かに、イギリスに留学中、この血液型と性格との関連を話題にした記憶がありません)、日本や一部のアジアの地域に限定された占いのようです。この血液型性格占いは私たちの日常で広くみられます。テレビの番組でも頻繁に取り上げられていたり、バラエティーで話題になったりしているようですし、インターネットでも血液型占いなどの検索でひっかかるサイトは数多くあります。そのせいか、人々の日常の話題の中でも頻繁に出てきます。

あるとき、飼い犬の関係で知り合った人たちと一緒にキャンプをしました。それまであまり面識もなかったので、初対面に近いメンバーです。私も含めた男3人がバーベキューで焼くものを網の上に並べていました。一人がたくさんの手羽先を網の上に並べていましたが、そのうち困ったようなそぶりを見せました。見ると、網の上に右手羽ばかりをきれいに並べていたのですが、それがなくなり左手羽になってしまったのです。困ったそぶりは、途中で手羽がきれいに並ばなくなってしまったからでした。それを見ていた関西人のもうひとりが、「にいさん、A型でっしゃろ、ぜったいA型やわ」といきなり断言しました。私は苦笑するしかありませんでした。

これと同様に、血液型性格占いは会話をしやすくする程度の効果はあるでしょうが、あまり行き過ぎると問題があります。わたしのまわりでも、生物系の研究者でありながら雑談で血液型での性格占いを話題にする人は結構多くいます。また以前、ある科学ジャーナリストの人と話をしていた際にも、「血液型での性格占いはある程度あたると思うけど・・・」と言われたこともあります。このように、科学の成果を社会に発信する当事者や、それをわかりやすく伝えるジャーナリストがこの疑似科学に影響を受けているとすると、もはや笑って見過ごすこともできないでしょう。そろそろこのような血液型性格占いを安易に社会に広めるのは、特にマスコミを中心にしてやめてはいかがでしょうか?

では、なぜこのように血液型性格占いがもてはやされるのでしょう。一つは血液型による帰属意識が自分を安心させてくれるのでしょう。ある血液型のグループに自分が属していることの安心感があるのかもしれません。そうした帰属意識にまさって大きな効果があるのは、その血液型性格占いの言葉使いの巧みさです。そこで使われる言葉は不快感がなく、まるで聞かされている人をうれしくさせたり内心得意にさせるような言葉の連続です。少し手の込んだものになってくると、それに若干ネガティブな言葉を織り交ぜて不自然さを隠しつつ、最終的に快感を得られる内容にしています。これなら私が仮にどの血液型で説明されたとしてもあたった気がしてしまうでしょう。たとえば、先のA型といきなり言われた手羽先の人も「几帳面」と言われれば認めるでしょうが、「神経質」とだけ評価されれば首をかしげることになるでしょう。このように、言葉でどのように表現するかで性格診断もその気にさせることができたり、できなかったりすることになるのでしょう。

先日、朝日新聞の夕刊(2012年11月14日付)で面白い記事を目にしました。札幌市の大学生2人が否定的な言葉をポジティブな言葉に変換する「ネガポ辞典」を出版したというものです。たとえば、「キモい」が辞書をひくと「存在感がある、ミステリアス」という言葉に変換されるそうです。なるほど、最近学校でのいじめが問題になっていますが、いじめ被害者もこの辞書をひくと少し前向きな気持ちになれるかもしれません。本来このような人格を否定する言葉は使われない方がいいのでしょうが、そういう問題がある以上、こちらの辞書による言葉の使い方は社会にとって価値がありそうです。

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