記憶のテストをしている場合か?

マウスを使って記憶能力(きおくのうりょく)を調べるテストは数多く開発されています。中には、乳白色の水を張った円形のプールの中にマウスを入れ、見えないように沈めた足をついて休むためのプラットホームを探すまでの時間を調べるようなテストもあります。空間記憶が正常に働いていれば、テストするたびに水の中のプラットホームを探すまでの時間は短くなるというものです。

もう少し簡単にできるテストにY迷路(めいろ)テストというものがあります。最近私たちの研究室でも試してみました。ちょうど迷路間の角度がいずれも120度になるように設計された3つのアーム部分を持つ迷路です。アームのそれぞれを1番、2番、3番とします。1番のアーム部分にまずマウスを入れて、そこに馴らします。その後2番と3番のアーム部分に自由に行くことができるようにします。マウスは一度探索(たんさく)したアームよりも新しいアームを探索することを好むので、次に2番のアームに入ったマウスをそのあと3番のアームに入ることが多くなります。繰り返し何度も2番のアームに入るようだと、その記憶に何らかの異常が生じているかもしれないというわけです。

記憶といえば、マウスの試験結果をあまり面白がっている場合でもありません。

先日のゴードンカンファレンスからの帰りの飛行機では、カンファレンスに日本から参加されていた方と偶然(ぐうぜん)座席が隣り合せになりました。アメリカの航空会社の飛行機の最後尾の席でした。乗り込んだ際に、長い飛行中にどの映画を見るかという話になりました。あまり面白い映画がリストにないということで意見がほぼ一致していたのですが、私が往路でみた邦画(ほうが)で面白いと思ったものがあることを思い出しました。

「陽だまりの彼女」という映画でしたが、ピュアなストーリーで見終わった後もすがすがしく感じる映画でした。「この映画はなかなか面白かったですよ。帰りにもう一度見てもいいかなと思うくらいです」とすすめてみました。その後彼は、飛行中にその映画を見ていていました。

成田空港に着陸した際に映画の話になり、「陽だまりの彼女 を観ましたよ。途中までですけど2度も見ちゃいました。よかったですね」 

私も気分がよくなり「そうでしょう。なかなかいいですよね」と返事をしました。その後、役者の話になりました。「女優は誰ですか?」と聞くので、「あれは上野樹里ですよ」と、そこまでは普通の会話でした。

そこから彼が「でも櫻井翔がなかなかいい役者だということがわかりました」と言ったところから会話が少し違う世界に入っていきました。

「違いますよ。あれは櫻井翔じゃないですよ」と私は断言しました。

「いや、櫻井翔でしょう、嵐の」と自信をもって彼も言います。

私も「いや、櫻井翔じゃなくて、同じグループの、、、ちょっと名前が思い出せませんが違う人ですよ。しかも、櫻井翔は嵐じゃないですよ。。。グループ名は思い出せませんが。」かなり怪しい発言です。

「いや、櫻井翔は嵐でしょう」

「いや、違うグループですよ、でもその役者の名前は誰でしたっけ?」

ついに彼はビデオを早送りの再生操作してエンディングクレジットを確認しました。「ああ、松本潤でしたね。」

「ああ、そうかようやくすっきりしました。松潤でしたね。」ということでお互い納得してめでたく会話が終了し、普通の世界にようやく戻ってきました。

櫻井翔と松本潤の区別がつかないおじさんと、櫻井翔が嵐のメンバーだと思い出せずしかも松本潤の名前が思い出せないおじさんの怪しい会話が飛行機の最後尾で繰り広げられたのでした。ただ、周囲に比較的外国人が多く、若い日本人の客がすくなかったことがせめてもの救いでした。


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