活動性を調べるには

私たちは行動について研究しているのですが、この行動を解析するというのはしばしば難しいことがあります。特に人の行動を調べるというのは難しいものです。なぜなら人は本心を隠すこともしますし、見栄を張ることもあるからです。

前回の話しの続きです。活動性もまた旅をするための重要な要素になります。そもそも動こうという意思がなければ旅は始まりません。数年前に芸人の間寛平さんがアースマラソンをしたことは記憶に新しいですが、信じられないような距離のマラソンです。なにしろ陸上で2万キロメートルを走ったというのですが、どのような距離なのか想像もつきません。一方で、テレビゲームに没頭するあまりほとんど家から外へ出ない人もいるので、この活動性は人によってかなり大きな違いがあります。

活動性はマウスでも調べることができます。よく知られているのは回し車です。よくペットを販売する店で、ハムスターなどの遊び用器具として売られていたりするので多くの方にはイメージしやすいかもしれません。行動テストとしても回し車がよく使われており、その回転軸に取り付けられたカウンターによって、マウスが何回回し車を回したか記録にとることができます。マウスは回転輪の周囲を踏んで走るので、円周の長さに回転数をかけると走った距離が算出できます。私たちのところでもざっと調べると、マウスは一晩に14キロメートル移動したこともあります。ただし、この回し車はマウスにとって報酬的な意味合いのあるもののようです。活動量というだけでなく、回し車を回すということに対する嗜好性も関係してくるので単に活動量と言っていいか注意が必要です。

回し車による活動量を調べる装置

私たちの研究室ではホームケージ活動性テストという行動実験をしています。ケージの上に取り付けた赤外線センサーにより、マウスがどの程度移動をしているか、カウント数としてあらわすのです。私はこのテストが気に入っています。なぜならマウスを飼育ケージに入れたままでその活動性を調べることができるからです。行動テストはしばしば動物に対してストレスを与えざるをえないものもありますが、このテストではマウスが自分のケージの中で普通に生活している状態で、その行動を定量することができるのです。この実験によって、マウスによって活動量の多いものや少ないものがいることが良くわかります。この違いに関わる遺伝子を探そうとしているのです。


ホームケージ活動性テストの装置
 このように、マウスを使って実験をすると、活動性に関わる遺伝子座を調べていくことが容易にできます。活動量を測定するための装置も開発されていますので、マウスを飼育用のケージに入れておけば活動量をしっかりと調べることが可能です。でも人ではどうでしょうか?いくら実験のためとはいえ人を何日にもわたって閉じ込めておくことはとても難しいでしょう。特に実験ではたくさんのサンプルが必要になります。大勢の人の活動量を効率よく調べることが必要なのですが、これはなかなか難しいことです。

先日78歳になる母親と電話で話しをしていると、最近万歩計をつけるようになったそうです。それで調べてみるとなんと毎日1万歩以上カウントしているそうです。そういえば昔からよく動く人なので、今でも1万歩を超していても不思議ではありません。でもこの万歩計、人の活動量を調べるのにはなかなか適していそうです。量販されていいるものなので比較的安価で、しかも取り付けることが人に対して特にストレスになりません。たくさんの人に毎日万歩計の数値を記録してもらうだけで、人の活動量を調べることができそうです。でも、仕事により移動の多い人と事務仕事の多い人など、自発的な要素でないものに影響を受けることは避けられません。首都圏などでは地下鉄の乗り換えの要領が悪いだけでカウント数がやたらと多くなることもあるかもしれません。また、万歩計のカウントを増やすためにやたら頑張る人も出てくるでしょう。やはり人の行動を調べるのは難しいのかもしれません。

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